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横浜地方裁判所 昭和35年(わ)2058号 判決 1961年3月22日

被告人 鈴木勇こと高木信夫

昭一七・三・一生 無職

主文

被告人を懲役四年以上五年以下に処する。

未決勾留日数中九〇日を右刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、昭和三五年一〇月六日より同年一〇月一七日までの間、別表記載のとおり前後四回にわたり、川崎市藤崎町二丁目五四番地柴田善吉方外三ヶ所において、同人外三名の管理にかかる現金合計約二一、七〇〇円および婦人用腕時計一個外ネツクレス、手提金庫等合計三六点(価格合計約一四、七五〇円相当)を窃取し、

第二、同年一〇月二〇日午前四時頃、東京都渋谷区代々木三丁目六番地三宅正友方居宅六畳間において金品を物色中、この物音に同人の妻かし子(五一年)が眼を覚すや、同所において、同女に対し所携の刃渡約二〇糎の庖丁を突きつけながら、「静かにしろ、金を出せ。」「こんな大きな家に金がないことはない。」などと申し向けて脅迫し、同女の反抗を抑圧して同女から現金四五〇円位を強取し、

第三、同年同月二二日午前四時頃、東京都中野区江古田一丁目二、二九九番地渡部桜方居宅において、右桜所有の現金一、一〇〇円位在中の財布一個および婦人用腕時計一個(時価約一五、〇〇〇円相当)を窃取し、引き続き同居宅北西側六畳間において金品を物色していたところ、同室に就寝中の右桜の長女楓(当時二五年)が目を覚ましたので、同女から金品を強取しようと決意し、同女に対し所携の刃渡約二五糎の肉切庖丁を突きつけながら、「静かにしろ、あり金全部出しなさい。」などと申し向けて脅迫し同女の反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが、同女が隙をみて戸外に逃れたためその目的をとげず、

第四、同年同月二六日午前三時過ぎ頃、東京都文京区駒込神明町八九番地高橋光義(当時四二年)方居宅応接間において、金品窃取の目的で裁縫箱や戸棚などを開いて物色中、その気配を察知した右高橋が応接間の方へ近付いて来たため、直ちにその場にあつた裁断鋏(昭和三六年押第二六号の1)をとりその握りの部分に洋服布地の切れはし(同号の2)を巻きこれを右手に持つて廊下へとび出し、同所において、逮捕を免れる目的をもつて、同人に対し右鋏を突きつけながら、「静かにしろ、騒ぐな」などと申し向けて脅迫し、さらに手拳で同人の顔面を殴打したり足蹴にするなどの暴行を加え、よつて、同人に対し全治約三週間を要する左頬部擦過傷、左上口唇裂傷などの傷害を負わせたものである。なお被告人は現に二〇才に満たない少年である。

(証拠の標目)(略)

(公訴事実中住居侵入の点に関する判断)

本件公訴事実第二ないし第四において判示第二ないし第四の各罪とそれぞれ牽連犯の関係にあるものとしていずれも住居侵入の事実があわせ起訴されているのであるが、横浜家庭裁判所裁判官の同地方検察庁検察官に対する送致決定書の記載によれば、住居侵入の事実についてはいずれも検察官に対し送致の決定がなされたものとは認められず、本件のごとく送致決定のなされた罪と科刑上一罪の関係にある罪であつても家裁裁判官の送致を経ない以上これを起訴することは許されないものというべきであるから、本件公訴事実中住居侵入の点はいずれも訴訟条件を欠き審判の対象たりえないものといわなければならない。しかして、右各住居侵入は判示第二ないし第四の各罪とそれぞれ科刑上一罪の関係にあるものとして起訴されたものであるから特に公訴棄却の言渡をしない。

(法令の適用)(略)

(裁判官 赤穂三郎 三井喜彦 奥山恒朗)

(別表略)

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